冬に触れる、やさしい季語たち
冬の訪れとともに、
空気は澄み、
光は静かにやわらぎます。
「立冬」から「師走」まで、
季節の変わり目を
彩る言葉を集めました。
有名俳人の句を通して、
冬の情景と心のぬくもりを
感じてみましょう。
冬の時候季語12選vol.1
季語『立冬』
『立冬』の意味
二十四節気のひとつで、
暦の上で冬の始まりを告げます。
日差しのぬくもりの中にも、
冷たい風が混じり始めるころ。
木々の葉が散り、空気が澄んでいく、
季節の移ろいを感じさせる
冬の入り口の時候季語です。
『立冬』のコラム
立冬は、秋から冬への橋渡しの時期で、
一年の終わりを意識し始める節目です。
俳句では、静けさやあたたかさの対比、
日常の変化を繊細に詠む題材として
用いられます。
寒さに備えながらも、
穏やかな季節の始まりを伝える言葉です。
『立冬』の例句をご紹介

俳句:あらたのし 冬たつ窓の 釜の音
読み:あらたのし ふゆたつまどの かまのおと
俳人名:上島鬼貫(うえじま おにつら)
要約:冬の始まりを告げる朝、
窓辺から釜の湯気が立ちのぼる。
その音に、寒さとともに訪れる
新しい季の息吹を感じる。
ぬくもりの中に静かな喜びを
そっと見いだした一句です。
季語『初冬』
『初冬』の意味
冬に入ったばかりの時期を指し、
まだ寒さがやわらかく、
木々にわずかに秋の名残が残ります。
澄んだ空気とともに、
静かな季節の始まりを
感じさせる言葉です。
俳句では、穏やかな光や風を描き、
冬への移ろいを表します。
『初冬』のコラム
初冬は、秋の終わりと
冬の始まりが交差する時期。
人の暮らしや自然の変化を
穏やかに映します。
冬ざれほどの厳しさはなく、
心に残るぬくもりを詠む句も多いです。
季節のあわいを描くことで、
移ろいの美を感じさせる季語です。
『初冬』の例句をご紹介

俳句:初冬や 日和になりし 京はづれ
読み:はつふゆや ひよりになりし きょうはずれ
俳人名:与謝蕪村(よさ ぶそん)
→ことばあそびの詩唄で蕪村の句をもっと
要約:初冬の京の郊外、
澄んだ空の下に穏やかな日差しがさす。
冷えゆく季節の中にも、
やわらかなぬくもりが漂う。
静かな光景に、冬を迎える
心のゆとりが感じられる一句です。
季語『十一月』
『十一月』の意味
陰暦で冬の初めにあたる月で、
木の葉が落ち、北風が吹き始めます。
日脚が短くなり、
朝夕の冷え込みが増す頃。
秋の名残を残しつつも、
冬の訪れを実感する時期です。
静けさとぬくもりが交錯する、
季節の変わり目を示す時候季語です。
『十一月』のコラム
十一月は、一年の終盤を意識する月。
人々は冬支度を整え、
心も少しずつ静まっていきます。
俳句では、落葉や夕暮れ、
炉開きなどの情景と
結びつけて詠まれます。
日常の中にある寂寥と安らぎを
表現する季語です。
『十一月』の例句をご紹介

俳句:日暮れ見ぬ 十一月の 道の辺に
読み:ひぐれみぬ じゅういちがつの みちのべに
俳人名:原石鼎(はら せきてい)
要約:晩秋の夕暮れ、
静かな道のほとりで日が沈む。
秋から冬へと移ろう気配の中、
人の気配も薄れ、光も遠のく。
その一瞬の寂しさに、
季節の深まりをしみじみと
感じさせる句です。
季語『冬』
『冬』の意味
一年を四季に分けたうちの、
寒さの最も厳しい季節を指します。
大地が眠りにつき、
木々は葉を落として静まり返ります。
生命の息づかいが内にこもるこの時期は、
忍耐と静寂を象徴する
代表的な時候季語です。
『冬』のコラム
冬は、自然が沈黙し、
人の心も内省に向かう季節です。
俳句では、寒さや白の世界に
清らかな美を見いだします。
厳しさの中にあるあたたかさ、
静けさの中に宿る生命の力を詠む、
深い余情を持つ季語です。
『冬』の例句をご紹介

俳句:石枯れて 水しぼめるや 冬もなし
読み:いしかれて みずしぼめるや ふゆもなし
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:石は乾き、
流れゆく水はその勢いを失う。
自然が静まり返り、
季節の終わりが近づいている。
しかしまだ冬は遠く、
生命の余韻がかすかに息づく
情景を詠んだ句です。
季語『冬ぬくし』
『冬ぬくし』の意味
冬の日差しや風がやわらかく、
思いのほか温かく
感じられる様子を指します。
厳しい寒さの中にも、
ほっとする穏やかさが
あるときに使われます。
冬の自然が見せる優しい表情を伝える、
ぬくもりのある時候季語です。
『冬ぬくし』のコラム
冬ぬくしは、
寒さの中の安らぎを表す言葉。
日差しや人の気配に、
ほのかな温もりを
感じる情景に使われます。
俳句では、厳冬の静けさの中に
やさしい光を差し込ませるように詠まれ、
冬の柔らかな一面を伝える季語です。
『冬ぬくし』の例句をご紹介

俳句:冬ぬくし 日当たりよくて 手狭くて
読み:ふゆぬくし ひあたりよくて てぜまくて
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:冬の陽射しがやわらかく差し込み、
小さな部屋にあたたかさが満ちる。
手狭ささえも心地よく感じるのは、
静かな幸せがそこにあるから。
何気ない日常の中のぬくもりを
やさしく描いた一句です。
季語『冬ざれ』
『冬ざれ』の意味
冬の寒さが深まり、
草木が枯れ、
景色が荒涼として見える様子を指します。
風が冷たく、色彩を失った野山には、
静けさと寂しさが漂います。
自然の厳しさを映す、
冬の代表的な時候季語です。
『冬ざれ』のコラム
冬ざれは、
もののあわれを感じさせる言葉です。
人の暮らしや心の内にも、
静かな孤独や余情を映します。
俳句では、枯木や空の広がりとともに、
季節の深まりを描く
題材として用いられます。
寒々とした中に美を見いだす季語です。
『冬ざれ』の例句をご紹介

俳句:冬ざれの 厨に赤き 蕪かな
読み:ふゆざれの くりやにあかき かぶらかな
俳人名:正岡子規(まさおか しき)
→ことばあそびの詩唄で子規の句をもっと
要約:寒さにすっかり荒れた冬の台所、
その中でひときわ鮮やかに光る赤い蕪。
侘しさの中に小さな生命の輝きを見つけ、
季節の寂寥とあたたかさを
対比させた句です。
季語『冬の日』
『冬の日』の意味
冬の季節に照る太陽や、
その日の光を指す時候季語です。
日差しは弱く、低い位置から
斜めに差し込むのが特徴。
寒さの中にも
ほのかなぬくもりを感じさせ、
静かな時間の流れを映します。
明るさと寂しさが同居する季語です。
『冬の日』のコラム
冬の日は、
光と影の対比を際立たせる言葉。
弱々しい日差しが、
人の心にやさしく
触れるように描かれます。
俳句では、安らぎや静けさ、
時の流れのゆるやかさを
詠む題材として親しまれます。
冬の光がもたらす
穏やかな情景を伝える季語です。
『冬の日』の例句をご紹介

俳句:冬の日や 茶色の裏は 紺の山
読み:ふゆのひや ちゃいろのうらは こんのやま
俳人名:夏目漱石(なつめ そうせき)
要約:冬の日差しに照らされた風景、
手前の茶色い土や家並みの奥に、
深い紺色の山が静かにそびえる。
枯れた色の中にある力強い対比が、
冬の澄んだ空気と自然の美を
際立たせる句です。
季語『小春』
『小春』の意味
晩秋から初冬にかけての、
穏やかで暖かな晴れの日を指します。
「小春日和」とも呼ばれ、
冬の始まりに一時的に訪れる陽気です。
春を思わせるやわらかな気候に、
人々はほっと心をゆるめます。
冬の季節をやさしく告げる時候季語です。
『小春』のコラム
小春は、冬の冷たさの中にある
ぬくもりと安らぎを象徴します。
俳句では、柔らかな日差しや、
静かな暮らしの一場面を
映して詠まれます。
過ぎゆく秋への名残と、
冬の始まりの希望をつなぐ言葉として、
古くから愛されています。
『小春』の例句をご紹介

俳句:玉の如き 小春日和を 授かりし
読み:たまのごとき こはるびよりを さづかりし
俳人名:松本たかし(まつもと たかし)
要約:やわらかな陽ざしに包まれた小春日和、
それはまるで宝玉のように尊く美しい。
寒さの合間に与えられた一日のぬくもりを、
感謝とともに静かに受けとめる。
自然の恵みを素直に喜ぶ句です。
季語『霜月』
『霜月』の意味
陰暦の十一月を指し、
霜が降り始める季節である
ことから名づけられました。
朝晩の冷え込みが厳しくなり、
冬の訪れを実感する頃です。
木々が葉を落とし、
空気が澄みわたるこの時期は、
静けさを深める時候季語です。
『霜月』のコラム
霜月は、晩秋から冬へと移る節目の月。
田畑は休みに入り、
人々は冬支度を整えます。
俳句では、霜や夜寒と結びつけて詠まれ、
季節の静まりや孤独を表現します。
寒さの中にもぬくもりを求める心情を、
やさしく映す季語です。
『霜月』の例句をご紹介

俳句:霜月や 日ごとにうとき 菊畑
読み:しもつきや ひごとにうとき きくばたけ
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:霜月の冷え込みが深まり、
かつて華やいだ菊の畑も
次第に寂しくなる。
日ごとに人の足も遠のき、
花も静かに時を終えてゆく。
季節の移ろいと無常の美を
しみじみと詠んだ一句です。
季語『十二月』
『十二月』の意味
一年の締めくくりの月であり、
寒さがいよいよ本格的になる頃です。
日が短く、
街には年の瀬の気配が漂います。
人々は新年を迎える準備を進め、
慌ただしさと静けさが入り混じります。
冬の深まりと共に時の流れを感じる、
時候季語です。
『十二月』のコラム
十二月は、別名「師走」とも呼ばれ、
僧侶までもが走るほど
忙しい月とされます。
俳句では、静寂の中に動きを
見いだす題材として用いられます。
寒風の中に灯る灯りや、
人の往来に季節の温もりを重ね、
一年を締めくくる余情ある季語です。
『十二月』の例句をご紹介

俳句:十二月 上野の北は 静かなり
読み:じゅうにがつ うえののきたは しずかなり
俳人名:正岡子規(まさおか しき)
→ことばあそびの詩唄で子規の句をもっと
要約:年の瀬の上野、
街の喧騒から離れた
北のあたりは静まり返る。
冬の澄んだ空気の中に、
過ぎゆく一年への思いが
しっとりと漂う。
静寂の中にある時間の深さを
穏やかに描いた一句です。
季語『冬至』
『冬至』の意味
二十四節気のひとつで、
一年のうちで昼が最も短く、
夜が最も長い日を指します。
古来より太陽の力が
再び強くなり始める節目とされ、
かぼちゃを食べ、ゆず湯に入るなど、
無病息災を祈る風習が残ります。
『冬至』のコラム
冬至は、
陰が極まり陽に転ずる日とされ、
再生や希望の象徴とされています。
俳句では、静けさの中に
光の復活を感じさせる題材として
詠まれます。
寒さの底にあって、
新しい季節への兆しを映す、
意味深い時候季語です。
『冬至』の例句をご紹介

俳句:冬至の日 しみじみ親し 膝に来る
読み:とうじのひ しみじみしたし ひざにくる
俳人名:富安風生(とみやす ふうせい)
→ことばあそびの詩唄で風生の句をもっと
要約:一年で最も日が短い冬至、
やわらかな陽のぬくもりが膝に届く。
寒さの中にある温かさを
しみじみと感じながら過ごすひととき。
静かな季節の慈しみを詠んだ一句です。
季語『師走』
『師走』の意味
陰暦の十二月を指し、
一年の終わりを迎える月です。
名の由来は、僧侶(師)までもが
走り回るほど忙しい
という説があります。
街には年の瀬の慌ただしさが漂い、
新年を迎える準備に追われる頃。
冬の締めくくりを告げる時候季語です。
『師走』のコラム
師走は、時間の流れを最も強く感じる月。
人々は去りゆく年を惜しみ、
新しい年への期待を抱きます。
俳句では、静寂の中の動きを描き、
灯や風、雪などに心の機微を託します。
慌ただしさの奥にある静けさを
映す季語です。
『師走』の例句をご紹介

俳句:旅寝よし 宿は師走の 夕月夜
読み:たびねよし やどはしはすの ゆうづきよ
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:年の瀬の旅先、
宿の窓から見える夕月が
やさしく照らす。
寒さの中にも心落ち着く静けさがあり、
旅の疲れをそっと癒してくれる。
師走の情緒と孤独のやすらぎを
繊細にとらえた一句です。
まとめ
冬の時候季語は、
静けさや寒さの中に
ある温もりを伝えます。
立冬から師走までの言葉には、
季節の移ろいと
人の心の機微が宿ります。
俳句を通して、
冬の深さとやさしさを
感じてみましょう。
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