冬に触れる、やさしい季語たち
「冬の山」や「冬田」「枯野」など、
自然が見せる素朴な姿を集めました。
有名俳人の句を通して、
冬の風土に広がる情景と
心の余韻を味わってみましょう。
冬の地理季語12選vol.1
季語『冬の山』
『冬の山』の意味
冬を迎えた山々を指す季語です。
木々は葉を落とし、
雪や霜に覆われて静まり返ります。
冷気が満ち、澄んだ空気の中で、
山は厳かで清らかな姿を見せます。
生命の息づかいが眠るように潜む、
冬を象徴する地理季語です。
『冬の山』のコラム
冬の山は、
静寂と荘厳さを併せ持つ存在です。
人の気配が薄れ、
自然の純粋な姿が
あらわになります。
俳句では、雪や霧、
月光とともに描かれ、
心の静けさや孤独を表す題材です。
厳しさの中に美を宿す季語です。
『冬の山』の例句をご紹介

俳句:冬山や どこまで登る 郵便夫
読み:ふゆやまや どこまでのぼる ゆうびんふ
俳人名:渡辺水巴(わたなべ すいは)
要約:厳しい冬山を、郵便を届けるために
黙々と登ってゆく郵便夫の姿を描いた句。
冷たく静かな山の中に、
人の使命感と温かい心意気が
浮かびあがります。
季語『枯山』
『枯山』の意味
冬になり、木々が葉を落とし、
草も枯れて色を
失った山を指します。
雪に覆われる前の
荒涼とした姿が特徴で、
静けさと寒さが
深くしみわたります。
生命の気配が薄れ、
山肌があらわになることで、
季節の厳しさを
感じさせる季語です。
『枯山』のコラム
枯山は、
冬の静寂と物寂しさを
象徴する言葉です。
葉を落とした枝の影や、
風にさらされる裸の山肌は、
自然の厳しさと美しさを
あわせ持ちます。
俳句では、
孤独や余白の美を描く題材として
多く詠まれる季語です。
『枯山』の例句をご紹介

俳句:枯山に はるか一つの 葬を見る
読み:かれやまに はるかひとつの そうをみる
俳人名:飯田蛇笏(いいだ だこつ)
→ことばあそびの詩唄で蛇笏の句をもっと
要約:荒涼とした枯山を背景に、
遠くで執り行われる小さな葬儀が
静かに目に映った情景。
冬山の広がる孤寂の中に、
人の生と死の重みが
淡く浮かびあがる一句です。
季語『冬の水』
『冬の水』の意味
冬の冷気にさらされ、
澄みきって透明さを
増した水を指します。
川や池の水は、
凍りつく寸前の
張りつめた静けさをまとい、
音までも吸い込むように
落ち着きます。
冬の清冽さと静寂を象徴する
代表的な季語です。
『冬の水』のコラム
寒気によって研ぎ澄まされた
美しさを見せます。
流れの速さやきらめきも
どこか控えめで、
自然が息をひそめているようです。
俳句では、透明感や孤独感、
心の奥の静まりを
映す題材として親しまれ、
冬特有の詩情を深める季語です。
『冬の水』の例句をご紹介

俳句:冬の水 一枝の影も 欺かず
読み:ふゆのみず ひとえだのかげも あざむかず
俳人名:中村草田男(なかむら くさたお)
→ことばあそびの詩唄で草田男の句をもっと
要約:澄みきった冬の水面には、
枝の影までも正確に映り込み、
ごまかしのない透明さが
広がっています。
自然の厳しさと純粋さが
ひとつになり、
季節の研ぎ澄まされた気配を
伝える一句です。
季語『氷海』
『氷海』の意味
冬の厳しい寒さによって、
海面が凍りついた状態を
指します。
流氷が広がり、動きの少ない海は、
白と青の世界に
沈み込むように静まります。
荒々しさと神秘が同居し、
自然の力を強く感じさせる
冬を象徴する地理季語です。
『氷海』のコラム
氷海は、
極寒の地が持つ壮大な姿を
そのまま映し出す季語です。
流氷の衝突する音や、
遠くまで続く白い海原は、
人の存在の小ささを思わせます。
俳句では、孤独や静寂、
自然への畏敬の念を表す
題材として詠まれます。
『氷海』の例句をご紹介

俳句:氷海や はやれる橇に たわむところ
読み:ひょうかいや はやれるそりに たわむところ
俳人名:山口誓子(やまぐち せいし)
→ことばあそびの詩唄で誓子の句をもっと
要約:氷で覆われた海の上を、
勢いよく走る橇が
しなりながら進んでいく情景。
極寒の世界に満ちる緊張感と、
自然と人の力強い動きが交差し、
冬の迫力が鮮やかに
浮かびあがる一句です。
季語『氷柱』
『氷柱』の意味
屋根先や岩肌から垂れ下がる、
細長く凍った水の柱を指します。
滴る水が寒さによって凍りつき、
少しずつ成長して形をつくります。
透明な輝きと
冷たさを帯びた氷柱は、
冬ならではの自然の造形美を映す
代表的な季語です。
『氷柱』のコラム
氷柱は、
冬の厳しい寒さを
静かに物語る存在です。
陽光を受けてきらめく姿や、
溶けて滴る音には、
季節の移ろいと儚さが宿ります。
俳句では、冷たさの美を捉えつつ、
心の静まりや余韻を
描く題材として
親しまれています。
『氷柱』の例句をご紹介

俳句:朝日影 さすや氷柱の 水車
読み:あさひかげ さすやつららの みずぐるま
俳人名:上島鬼貫(うえじま おにつら)
要約:朝日が差し込み、
氷柱がかかった水車が
静かに輝く情景。
冬の冷たさの中に、
光がもたらす
あたたかな気配が広がり、
静寂と生命の息づきを
感じさせる一句です。
季語『冬の川』
『冬の川』の意味
冬の冷気に包まれ、
水量や流れが静かに
落ち着いた川を指します。
水面は澄み、岸辺には霜や
氷が見られることもあります。
流れの音さえ控えめになり、
季節の冷たさと
静けさが漂います。
冬景色を象徴する
代表的な地理季語です。
『冬の川』のコラム
冬の川は、
自然の動きを最小限にして、
静謐な美しさを見せます。
水の透明さや、
岸辺の寒々とした情景が
心に残ります。
俳句では、孤独や余韻を表す
題材として親しまれ、
冬の深まりとともに
内面の静けさを映す季語です。
『冬の川』の例句をご紹介

俳句:冬川や 筏のすわる 草の原
読み:ふゆがわや いかだのすわる くさのはら
俳人名:宝井其角(たからい きかく)
→ことばあそびの詩唄で其角の句をもっと
要約:冬枯れた草原に、
筏が静かに置かれている情景。
そばを流れる冬川の冷たさと、
動きを止めた筏の対比が
季節の静寂と侘しさを
鮮やかに伝える一句です。
季語『冬景色』
『冬景色』の意味
冬の季節に広がる、
雪・霜・氷・枯色などを
含んだ風景を指します。
色彩は少なく、
静けさと冷たさが場を包みます。
澄んだ空気のもとで、
自然の姿が簡素にあらわれ、
冬ならではの落ち着いた美しさを
感じさせる季語です。
『冬景色』のコラム
冬景色は、
もの寂しさの中に
深い味わいを秘めた情景です。
雪に覆われた山や川、
霜の降りた野や道など、
人の暮らしにも静まりが訪れます。
俳句では、簡素な光景の中に
心の陰影や余韻を重ね、
冬の詩情を描く題材として
親しまれます。
『冬景色』の例句をご紹介

俳句:帆かけ舟 あれや堅田の 冬げしき
読み:ほかけぶね あれやかたたの ふゆげしき
俳人名:宝井其角(たからい きかく)
→ことばあそびの詩唄で其角の句をもっと
要約:冬の堅田の湖上に、
帆を上げた舟が進んでいく情景。
寒気に包まれた静かな水面と、
白い帆の存在感が対照的で、
冬景色の凛とした美しさを
際立たせています。
季語『冬野』
『冬野』の意味
冬の寒さの中で草木が枯れ、
色を失った広い野原を指します。
風が吹けば、枯草がさざめき、
静けさと寂しさが
一面に広がります。
生命の気配が薄れた冬野は、
冬の厳しさと静寂を象徴する、
代表的な地理季語です。
『冬野』のコラム
冬野は、
自然の簡素な姿を
ありのままに見せる情景です。
余白の多いその風景は、
見る人の心情を映し出す鏡のよう。
俳句では、孤独や余韻を
表す題材として用いられ、
枯草や風、遠景との組み合わせで
冬の深い詩情を生み出します。
『冬野』の例句をご紹介

俳句:玉川の 一筋光る 冬野かな
読み:たまがわの ひとすじひかる ふゆのかな
俳人名:内藤鳴雪(ないとう めいせつ)
要約:冬枯れの野を流れる玉川が、
細く光を放ちながら
続いている情景。
荒涼とした冬野の静けさの中で、
水のきらめきがひときわ際立ち、
季節の清らかな美しさを
伝える一句です。
季語『雪の原』
『雪の原』の意味
一面が雪に覆われ、
果てしなく広がって見える
野原を指す季語です。
音を吸い込むような静けさと、
光を受けてきらめく白さが特徴。
足跡ひとつない広がりは、
冬の厳しさと美しさを
同時に伝えます。
自然がつくる荘厳な冬景です。
『雪の原』のコラム
雪の原は、
冬の広大さと静寂を
象徴する言葉です。
何もない空間に、
人の心の想いが
そのまま投影されるような
余白があります。
俳句では、孤独・希望・潔白など、
さまざまな心情を
託す題材として親しまれます。
白一色の世界が、
冬の詩情を深く広げます。
『雪の原』の例句をご紹介

俳句:ながながと 川一筋や 雪の原
読み:ながながと かわひとすじや ゆきのはら
俳人名:野沢凡兆(のざわ ぼんちょう)
要約:果てしなく続く雪の原の中を、
一本の川がまっすぐ
流れていく情景。
白一色の世界に刻まれた
その細い線は、
静寂の中で確かな生命の気配を示し、
冬景色の雄大さと
美しさを際立たせています。
季語『冬の庭』
『冬の庭』の意味
冬の寒さに包まれ、
草木が枯れたり休んだり
している庭を指します。
色彩は少なく、
落ち葉や霜、静かな日差しが
広がるのが特徴です。
人の気配もゆるやかで、
季節の静まりをそのまま映す
冬ならではの庭の情景です。
『冬の庭』のコラム
冬の庭は、
華やかさが消えた中に
深い味わいを宿す場所です。
石や木々の影、
わずかな光の変化が際立ち、
日常の中に静かな美を
見いだします。
俳句では、生活のぬくもりや孤独、
季節の移ろいを描く題材として
親しまれる季語です。
『冬の庭』の例句をご紹介

俳句:いたずらに 石のみ立てり 冬の庭
読み:いたずらに いしのみたて ふゆのにわ
俳人名:蝶夢(ちょうむ)
要約:冬の庭に、
石だけがぽつんと立っている
光景を詠んだ句。
草木が枯れ、
彩りを失った空間の中で、
ただ石だけが存在を示し、
季節の静けさとわびしさを
際立たせています。
季語『冬田』
『冬田』の意味
稲刈りが終わり、
刈り株やわらが残る
冬の田を指します。
水は抜かれ、土は乾き、
静まり返った田んぼには
冬の冷気が満ちます。
人の作業が途絶えたその風景は、
季節の終わりと始まりを示す、
冬特有の地理季語です。
『冬田』のコラム
冬田は、
豊作の余韻を残しながら、
次の季節を待つ静かな
佇まいが魅力です。
風に揺れる刈り株や、
薄い霜に覆われた土の表情が
詩情を誘います。
俳句では、暮らしの落ち着きや
冬の静けさを語る題材
として多く詠まれ、
素朴な美を映す季語です。
『冬田』の例句をご紹介

俳句:雨水も 赤くさびゆく 冬田かな
読み:あまみずも あかくさびゆく ふゆだかな
俳人名:炭太祇(たん たいぎ)
→ことばあそびの詩唄で太祇の句をもっと
要約:刈り取りの終わった
冬田に残る雨水が、
赤くさびたような色を
帯びて見える情景。
季節の冷たさと、
田の静かな時間の流れが滲み、
冬田ならではの侘しさと
深い余韻を伝える一句です。
季語『枯野』
『枯野』の意味
冬を迎えて草木がすべて枯れ、
色を失った広い野原を指します。
風が吹けば枯草が揺れ、
静寂と寂しさが
あたり一面に広がります。
生命の気配が薄れた景色は、
冬の厳しさと静けさを象徴し、
深い余白を感じさせる季語です。
『枯野』のコラム
枯野は、簡素な風景の中に
深い詩情を宿す季語です。
草木が枯れたその“空白”にこそ、
人の心の陰影や静けさが映ります。
俳句では、旅・孤独・余韻などを
表す題材として多く詠まれ、
冬の情緒を豊かに広げます。
『枯野』の例句をご紹介

俳句:旅に病んで 夢は枯野を かけ廻る
読み:たびにやんで ゆめはかれのを かけめぐる
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:旅の途中で病に伏しながらも、
心だけは広い枯野を
駆けめぐっているという句。
衰えゆく身体とは対照に、
旅を愛した芭蕉の自由な精神と
人生への想いが
深くにじむ名句です。
まとめ
冬の地理季語は、
山や川、野や庭が見せる
素朴で静かな美しさを伝えます。
枯れた景色の中にも、
季節の深まりや心の陰影が宿ります。
俳句を通して、
冬の風土が生む情景の豊かさを
感じてみましょう。
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