秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば

季語紹介シリーズ
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秋に触れる、やさしい季語たち

季節の入り口には、
そっと心にふれることばがあります。
今回は「秋の時候季語」から
代表的な12語をご紹介。
有名俳人の俳句とともに、
やさしく秋の気配にふれてみましょう。

秋の時候季語12選

秋の時候季語『八月』

『八月』の意味

俳句における「八月」は、
旧暦八月を指す時候季語で、
現在の九月頃にあたります。
秋の深まりとともに、
虫の音や澄んだ空気に包まれ、
季節の成熟と静けさを感じる時期。
「葉月(はづき)」の雅称も
風情ある響きを添えます。

『八月』のコラム

「八月」は季節のけじめを感じさせ、
夏の名残と秋の気配が交差する言葉です。
俳句では、秋の風情を深める
情景や心情とともに詠まれ、
静かな余韻を残す表現に用いられます。
「葉月」としての表記も風雅です。

『八月』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「八月」『八月や 楼下に満つる 汐の音』「正岡子規」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「八月や 楼下に満つる 汐の音」
読み:「はちがつや ろうかにみつる しおのおと」
俳人名:正岡子規 (まさおか しき)
(→ことばあそびの詩唄で子規の句をもっと
要約:海辺の建物に響く潮の音が、
   八月の情緒を静かに伝える一句。
   耳から感じる秋の気配に、
   季節の深まりと余韻がにじんでいます。

秋の時候季語『残暑』

『残暑』の意味

立秋を過ぎてもなお
厳しい暑さが続くことを、
俳句では「残暑」と詠みます。
夏の名残が日差しや空に残り、
秋との境目に立つことばです。
暦の上では秋でも、
身体には夏の感覚が残る時期。
季節のゆらぎを伝える
代表的な時候季語です。

『残暑』のコラム

「残暑見舞い」という言葉でも
なじみ深い季語です。
俳句では、暑さの中に
秋の気配を重ねる表現が多く、
風や光の描写で
季節の移ろいを伝えます。
「余暑」も同じ意味ですが、
「残暑」の方が俳句では
よく使われる表記です。

『残暑』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「残暑」『朝夕の どかとよろしき 残暑かな』「阿波野青畝」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「朝夕の どかとよろしき 残暑かな」
読み:「あさゆうの どかとよろしき ざんしょかな」
俳人名:阿波野青畝 (あわの せいほ)
要約:朝夕の暑ささえも、
   どっしりと受けとめて楽しむような一句。
   残暑の力強さと、それを好ましく感じる
   心の余裕がにじみます。

秋の時候季語『処暑』

『処暑』の意味

二十四節気のひとつで、
毎年八月二十三日頃。
暑さが落ち着きはじめ、
朝夕に秋の気配が漂います。
台風が多い時期でもあり、
空模様の変化も味わいに。
「暑さが処する」と書き、
夏から秋への節目を表す
代表的な時候季語です。

『処暑』のコラム

「しょしょ」という響きには、
どこか静けさがあり、
残る暑さの中に秋の気配を
見つけるような余韻があります。
俳句では、風や虫の声など、
感覚の変化とともに
季節のうつろいを表現する
しっとりとした句が多く
詠まれる季語です。

『処暑』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「処暑」『老犬や 処暑の大地に はらばひて』「細谷喨々」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「老犬や 処暑の大地に はらばひて」
読み:「ろうけんや しょしょのだいちに はらばひて」
俳人名:細谷喨々 (ほそや りょうりょう)
要約:残る暑さの中、大地に身をゆだねる老犬。
   処暑のゆるやかな季節の変化と、
   命の静かな佇まいが重なり、
   深い余韻を残す一句です。

秋の時候季語『八月尽』

『八月尽』の意味

旧暦八月の終わりを表す
時候の季語です。
現在の九月下旬頃にあたり、
夏の気配が名残として漂いながら、
本格的な秋へと
季節が静かに移ろう時期。
「尽」は“終わり”を意味し、
過ぎゆく時間への
感慨を込めて詠まれます。

『八月尽』のコラム

「尽(じん)」という言葉には、
静かに終わっていく時間への
名残や余韻がにじみます。
俳句では、夏の終わりを惜しむ心や
季節のけじめを表す表現として
好まれて使われます。
一つの季節の幕が下り、
心もまた秋へ向かう、
節目のことばです。

『八月尽』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「八月尽」『八月尽の 赤い夕日と 白い月』「中村草田男」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「八月尽の 赤い夕日と 白い月」
読み:「はちがつじんの あかいゆうひと しろいつき」
俳人名:中村草田男
 (なかむら くさたお)
(→ことばあそびの詩唄で草田男の句をもっと
要約:赤い夕日と白い月、
   二つの光が交差する夕景に、
   夏の終わりと秋の気配が
   静かに重なります。
   「八月尽」の余情が美しく響く一句です。

秋の時候季語『秋』

『秋』の意味

立秋から立冬前までの
季節を表す代表的な時候季語。
空が高く澄み、風が涼しくなる中、
実りや収穫、虫の声など、
自然の変化が豊かに感じられます。
感傷や静けさを映す季語として、
多くの俳句で用いられます。

『秋』のコラム

「秋」という季語は、
それだけで一句が成立するほど
情緒を含んだ言葉です。
自然のうつろいや人の心の動きが
重なりやすく、
俳句では感傷や余韻を表す
大切な季語とされています。
とくに夕暮れの景色と
相性がよいといわれます。

『秋』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「秋」『くろがねの 秋の風鈴 なりにけり』「飯田蛇笏」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「くろがねの 秋の風鈴 なりにけり」
読み:「くろがねの あきのふうりん なりにけり」
俳人名:飯田蛇笏 (いいだ だこつ)
(→ことばあそびの詩唄で蛇笏の句をもっと
要約:秋風に鳴る風鈴の音に、
   季節の移ろいと静けさを感じさせる一句
   「くろがね」という語が
   涼やかで鋭い音の質感を際立たせ、
   深まりゆく秋を静かに描きます。

秋の時候季語『仲秋』

『仲秋』の意味

「仲秋」は、旧暦八月を指す
時候の季語で、秋の真ん中の時期。
現在の九月中旬頃にあたり、
空気が澄み、虫の声が響く季節です。
「中秋の名月」でも知られ、
月や風、光とともに
秋の情緒を映す言葉として
多くの句に詠まれます。

『仲秋』のコラム

「仲秋」は、とくに月と結びつき、
「中秋の名月」として親しまれます。
十五夜の美しい月を眺めながら
秋の深まりを感じる風習は、
古くから歌や俳句に詠まれてきました。
光や静けさをともなう季語として、
季節の情緒を描くのにぴったりです。

『仲秋』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「仲秋」『仲秋や 月明かに 人老いし』「高浜虚子」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「仲秋や 月明かに 人老いし」
読み:「ちゅうしゅうや つきあらかに ひとおいし」
俳人名:高浜虚子
 (たかはま きょし)
(→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:仲秋の澄んだ月明かりに照らされて、
   ふと自らの老いを感じた情景。
   季節の美しさと人生の時間が
   静かに重なる、深い味わいのある一句です。

秋の時候季語『立秋』

『立秋』の意味

二十四節気のひとつで、
暦の上で秋の始まりを意味します。
毎年八月七日頃にあたり、
残暑の中にも秋風の気配が立つころ。
季節の節目を表す言葉として、
多くの俳句に使われる
代表的な時候季語です。

『立秋』のコラム

俳句では「秋立つ」や「秋来る」など、
言い換え表現もよく使われます。
暑さの中にふと感じる風や空の変化に、
秋の気配を見出す表現が多く、
季節の始まりを詠む言葉として
しっとりとした趣があります。

『立秋』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「立秋」『秋立つと 仏こひしき 深大寺』「石橋秀野」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「秋立つと 仏こひしき 深大寺」
読み:「あきたつと ほとけこいしき じんだいじ」
俳人名:石橋秀野 (いしばし ひでの)
要約:秋の気配を感じたとき、
   ふと仏が恋しくなるという心の動き。
   深大寺という静かな場所と相まって、
   季節の始まりと精神的な深まりが
   響き合う一句です。

秋の時候季語『今朝の秋』

『今朝の秋』の意味

立秋を迎えた朝、
ふと空気や光に秋を感じる、
そんな瞬間を詠む季語です。
「今朝」は“けさ”と読み、
「秋」と合わさることで、
季節の始まりの実感がこもります。
風の肌ざわりや空の透明感など、
五感でとらえる秋の訪れを
静かに伝える表現です。

『今朝の秋』のコラム

「今朝の秋」は、
秋のはじまりに気づく
その“一瞬”を詠む言葉です。
俳句では、肌をすべる風や、
空の高さ、虫の声など、
わずかな変化を感受する句が多く、
静かな驚きと共鳴する
情緒豊かな季語といえます。

『今朝の秋』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「今朝の秋」『けさ秋の 一帆生みぬ 中の海』「原石鼎」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「けさ秋の 一帆生みぬ 中の海」
読み:「けさあきの いちはんうみぬ なかのうみ」
俳人名:原石鼎 (はら せきてい)
要約:秋の気配に満ちた朝、
   静かな海に一艘の帆が現れる。
   「今朝の秋」という季語の清々しさと、
   風景の静けさが美しく溶け合い、
   季節の始まりを感じさせる一句です。

秋の時候季語『新涼』

『新涼』の意味

立秋を過ぎたころ、
残暑のなかにふと感じる
秋らしい涼しさを「新涼」といいます。
風や朝夕の空気に、
季節の変わり目を実感する時期。
秋の訪れを肌で知るような、
繊細な感覚をとらえた時候季語です。

『新涼』のコラム

「新涼」は、ことばの響きも
どこか清らかで、
俳句では朝の風や夕暮れの空など、
感覚の変化とともに詠まれます。
「初涼」や「涼新た」とも言い換えられ、
日常の中にふと訪れる
季節の静かな転換点を
繊細に描く季語です。

『新涼』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「新涼」『秋涼し 手毎にむけや 瓜茄子』「松尾芭蕉」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「秋涼し 手毎にむけや 瓜茄子」
読み:「あきすずし てごとにむけや うりなすび」
俳人名:松尾芭蕉 (まつお ばしょう)
(→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:秋の涼しさの中で、
   それぞれの手で瓜や茄子をむいている。
   何気ない日常に、季節の空気が溶け込み
   静かな味わいを生む一句です。

秋の時候季語『初秋』

『初秋』の意味

立秋を迎えた頃から、
秋の気配が本格的に感じられる
時期を「初秋」といいます。
朝夕の風が涼しくなり、
空の高さや虫の声に、
季節の移ろいが表れはじめます。
秋の入口を穏やかに伝える、
やさしい響きの時候季語です。

『初秋』のコラム

「初秋」は、残暑の気配が残る中に
ふと秋を感じる、
微妙な季節の重なりを表します。
俳句では、風や光、音などの
繊細な変化をとらえた表現が多く、
秋の入口に立つ心の揺らぎを
やさしく映す季語として
大切にされています。

『初秋』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「初秋」『日の色に まづ初秋の 哀れなり』「越智越人」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「日の色に まづ初秋の 哀れなり」
読み:「ひのいろに まずしょしゅうの あわれなり」
俳人名:越智越人 (おち えつじん)
(→ことばあそびの詩唄で越人の句をもっと
要約:陽の色にわずかな変化を感じ取り、
   秋のはじまりの哀れを覚える一句。
   視覚と心の揺らぎが静かに重なり、
   季節の感受性を美しくとらえています。

秋の時候季語『秋めく』

『秋めく』の意味

「秋めく」とは、まだ夏の名残がある中で
ふと秋の気配を感じること。
風の涼しさ、空の色、虫の声など、
日常のささいな変化に
秋らしさを見つけるときに使われます。
季節のうつろいをやわらかく表す、
感覚的な時候季語です。

『秋めく』のコラム

「秋めく」は、
秋が本格化する前の
“気配の季語”として詠まれます。
空や風に感じる変化を通して、
読者の感性に訴える表現が多く、
季節の兆しをすくい取る
俳句ならではの感受性を
引き立てる言葉です。

『秋めく』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「秋めく」『書肆の灯に そぞろ読む書も 秋めけり』「杉田久女」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「書肆の灯に そぞろ読む書も 秋めけり」
読み:「しょしのひに そぞろよむしょも あきめけり」
俳人名:杉田久女
 (すぎた ひさじょ)
(→ことばあそびの詩唄で久女の句をもっと
要約:書店の灯りに誘われて、
   そっと本を手に取る時間に、
   ふと秋の気配を感じる一句。
   日常の何気ない場面に、
   季節のうつろいを見出す感受性が光ります。

秋の時候季語『八朔』

『八朔』の意味

旧暦の八月一日を表す時候季語で、
現在の暦では九月初め頃にあたります。
「田の実の節句」とも呼ばれ、
農作物の実りを願う節目の日です。
夏の終わりと秋の始まりをつなぐ、
行事性のある季節の言葉です。

『八朔』のコラム

「八朔」には、感謝や祈りを込めて
贈り物を交わす風習もあり、
古くから人と人とのつながりを
大切にする日とされてきました。
俳句では、過ぎゆく季節への想いや、
秋を迎える心構えを詠む句に
よく使われます。

『八朔』の例句をご紹介

秋の時候季語12選-有名俳人の句で知る季節のことば「八朔」『八朔や 犬の椀にも 小豆飯』「小林一茶」の俳句のイメージイラスト画像

俳句:「八朔や 犬の椀にも 小豆飯」
読み:「はっさくや いぬのわんにも あずきめし」
俳人名:小林一茶
 (こばやし いっさ)
(→ことばあそびの詩唄で一茶の句をもっと
要約:八朔の祝いに、
   犬にも小豆飯をふるまう心づかい。
   人も動物もともに季節を迎える、
   暮らしのやさしさと
   秋のけじめを感じさせる一句です。

まとめ

秋の時候季語は、
季節の変わり目に寄り添う
静かなことばたちです。
俳人の一句にふれながら、
あなた自身の秋の気配も
見つけてみてくださいね。

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