冬に触れる、やさしい季語たち
前回に続き、
寒さが一段と深まる時期を表す
時候季語を集めました。
寒波や極寒、冬の果など、
冬の厳しさと
静けさを含んだ言葉は、
俳人たちのまなざしを通して
豊かな表情を見せてくれます。
本記事では、
有名俳人の句とともに、
寒さの中にある
季節の余韻をたどります。
冬の時候季語12選vol.2
季語『一月』
『一月』の意味
一月は、
新しい年の始まりを告げる月です。
正月行事や初詣など、
改まった気持ちとともに
迎えられます。
寒さが最も厳しい時期でもあり、
静かな日常の中に、
新年の清らかさや
引き締まった空気を感じさせる
冬の時候季語です。
『一月』のコラム
一月の景色には、
正月の賑わいが去ったあとの
静けさがあります。
冷たい空気や短い日差しの中で、
人々はゆっくりと
日常へ戻っていきます。
俳句では、
新年の始まりと
冬の厳しさが重なることで、
希望と慎ましさが
同時に表されてきました。
『一月』の例句をご紹介

俳句:「一月の 川一月の 谷の中」
読み:「いちがつの かわいちがつの たにのなか」
俳人名:飯田龍太(いいだ りゅうた)
要約:谷を流れる川も、
その周囲の景色も、
すべてが「一月」で
満ちていると感じる一句。
厳寒の季節が空間全体を包み込み、
時間までも止まったような
静けさが漂います。
龍太らしい重層的な表現で、
冬の深さと自然の一体感が
力強く描かれています。
季語『大寒』
『大寒』の意味
大寒とは、
二十四節気の一つで、
一年でもっとも寒さが
厳しくなる頃を指します。
例年一月下旬にあたり、
寒気が深まり、
水や土も凍る時期です。
冬の極みにあたる言葉として、
引き締まった空気や
静かな季節感を表す
時候季語です。
『大寒』のコラム
大寒の頃は、
冷え込みの厳しさの中に、
春へ向かう気配も
わずかに感じられます。
澄んだ空や冴えた星、
朝の霜の白さが印象的です。
俳句では、
寒さそのものよりも、
凛とした空気や
静けさの深まりを通して、
季節の節目が
表されてきました。
『大寒』の例句をご紹介

俳句:大寒の 埃の如く 人死ぬる
読み:だいかんの ほこりのごとく ひとしぬる
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:厳寒の季節に、人の死が日常の中で
淡々と起きている現実を詠んだ一句。
感情を強く語らず、
「埃の如く」という比喩で、
当時の社会に漂う無常さと
冷え切った空気を写します。
虚子の写生精神が、
冬の厳しさと人の生の儚さを
静かに浮かび上がらせています。
季語『寒の内』
『寒の内』の意味
寒の内とは、
小寒から大寒を経て、
立春の前日までの
一年で最も寒い期間を指します。
厳しい冷え込みが続く時期で、
静まり返った空気や
澄んだ寒さが特徴です。
冬の深まりを表す
時候季語として用いられます。
『寒の内』のコラム
寒の内の景色には、
物音の少ない朝や、
凍てつく夜の静けさがあります。
寒さは厳しくても、
日々の暮らしは淡々と続き、
人の営みが浮かび上がります。
俳句では、
冷気の中にある
心の落ち着きや
冬の深さを映す題材として
親しまれてきました。
『寒の内』の例句をご紹介

俳句:干鮭も 空也の痩も 寒の内
読み:ほしざけも くうやのやせも かんのうち
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:干し上げられた鮭の姿と、
空也上人のやせ細った像を重ね、
すべてを包む「寒の内」の厳しさを
詠んだ一句。
物も人も同じ寒気にさらされ、
世の清貧と静けさが際立ちます。
芭蕉らしい仏教的まなざしが、
冬の深さと無常観を
淡々と描き出しています。
季語『寒波』
『寒波』の意味
寒波とは、
冬に強い寒気が
広い範囲に流れ込む
現象を指します。
気温が大きく下がり、
雪や凍結を伴うこともあります。
日常の景色や暮らしを一変させる
寒さの訪れを表す言葉として、
冬の時候季語に用いられます。
『寒波』のコラム
寒波が訪れると、
街や野山は一気に静まり、
人の動きもゆるやかになります。
厚い雲や冷たい風が、
冬の存在感を強めます。
俳句では、
自然の力に身をゆだねる感覚や、
寒さの中で浮かび上がる
暮らしの小さな変化を通して、
季節の深まりが
詠まれてきました。
『寒波』の例句をご紹介

俳句:寒波きぬ 信濃へつづく 山河澄み
読み:かんぱきぬ しなのへつづく さんがすみ
俳人名:飯田蛇笏(いいだ だこつ)
→ことばあそびの詩唄で蛇笏の句をもっと
要約:寒波の到来によって、
信濃へと連なる山や川の景色が
一層澄みわたって見える情景を
詠んだ一句。
冷え込みは厳しいものの、
視界は開け、
自然の輪郭がくっきりと現れます。
蛇笏らしい雄大な視線で、
寒さがもたらす
静謐な美しさが描かれています。
季語『極寒』
『極寒』の意味
極寒とは、
寒さがきわめて厳しい状態を
表す言葉です。
大寒の頃や寒波の最中など、
気温が大きく下がり、
空気が凍るように
感じられる時期を指します。
冬の厳しさが
頂点に達した様子を表す
時候季語として用いられます。
『極寒』のコラム
極寒の景色には、
音が吸い込まれたような
深い静けさがあります。
息を吸うことさえ
意識する冷気の中で、
光や影、物の輪郭が
くっきりと際立ちます。
俳句では、
寒さそのものよりも、
極限の静寂や
張りつめた空気感を通して、
冬の深奥が描かれてきました。
『極寒』の例句をご紹介

俳句:極寒や 寝るほかなくて 寝しずまる
読み:ごっかんや ねるほかなくて ねしずまる
俳人名:西東三鬼(さいとう さんき)
要約:極寒の中では、
動くことも考えることもかなわず、
ただ眠りに身を
委ねるしかない心境を詠んだ一句。
寒さに抗わず、
生活が最小限へと縮む感覚が、
淡々とした言葉で表されています。
三鬼らしい率直な表現が、
冬の厳しさと人の脆さを
静かに浮かび上がらせます。
季語『春を待つ』
『春を待つ』の意味
春を待つとは、
厳しい寒さの中で、
やがて訪れる春を
心に思い描く気持ちを
表す言葉です。
冬の終わりを意識しながら、
光や温もりの兆しを
静かに待つ心情を含みます。
希望を内に秘めた
冬の時候季語です。
『春を待つ』のコラム
春を待つ心は、
雪や霜に覆われた景色の中で
ふと芽生えます。
日差しの伸びや、
夕暮れの明るさに、
季節の移ろいを感じる瞬間です。
俳句では、
寒さの只中にある
小さな期待や
静かな前向きさを
映す題材として
親しまれてきました。
『春を待つ』の例句をご紹介

俳句:口開けて 春を待つらん 犬はりこ
読み:くちあけて はるをまつらん いぬはりこ
俳人名:小林一茶(こばやし いっさ)
→ことばあそびの詩唄で一茶の句をもっと
要約:口を開けた張り子の犬を、
まるで春を
待ちわびているように見立てた一句。
命のない玩具に心を重ね、
寒い季節の中に
ほのかな期待と
ユーモアを感じさせます。
一茶らしい慈しみの眼差しが、
冬の終わりに向かう
やさしい時間を描いています。
季語『年の暮』
『年の暮』の意味
年の暮とは、
一年の終わりが近づいた頃を
指す言葉です。
十二月下旬の慌ただしい時期で、
仕事納めや大掃除、
年越しの支度などが重なります。
過ぎゆく一年を振り返り、
新しい年を
迎える心構えを含んだ
冬の時候季語です。
『年の暮』のコラム
年の暮の景色には、
忙しさの中に
どこか落ち着かない
気配があります。
街の灯りや人の足音が
増える一方で、
心は静かに内側へ向かいます。
俳句では、
暮らしの慌ただしさと
一年を締めくくる思いが
交わる瞬間を、
素朴な情景として
描いてきました。
『年の暮』の例句をご紹介

俳句:ともかくも あなたまかせの 年の暮
読み:ともかくも あなたまかせの としのくれ
俳人名:小林一茶(こばやし いっさ)
→ことばあそびの詩唄で一茶の句をもっと
要約:年の終わりを迎えながら、
細かなことに抗わず、
流れを誰かに、
あるいは運命に委ねる心境を
詠んだ一句。
忙しさや不安を抱えつつも、
「ともかくも」と受け入れる姿勢に、
一茶らしい人間味と
あたたかさがにじみます。
年の暮れの肩の力が抜ける瞬間を
静かに映しています。
季語『大晦日』
『大晦日』の意味
大晦日とは、
一年の最後の日である
十二月三十一日を指します。
年神を迎える準備として、
大掃除や年越しの支度を
整える日です。
過ぎた一年を締めくくり、
新しい年へ心を
切り替える節目として、
冬の時候季語に用いられます。
『大晦日』のコラム
大晦日の夜には、
年越しそばや除夜の鐘など、
静かな行事が重なります。
昼の慌ただしさとは対照的に、
夜になると心が落ち着き、
一年を振り返る時間が訪れます。
俳句では、
終わりと始まりが交わる
一瞬の気配を、
素朴な暮らしの情景として
描いてきました。
『大晦日』の例句をご紹介

俳句:漱石が来て 虚子が来て 大三十日
読み:そうせきがきて きょしがきて おおみそか
俳人名:正岡子規(まさおか しき)
→ことばあそびの詩唄で子規の句をもっと
要約:大晦日に、
夏目漱石や高浜虚子といった
親しい仲間が次々と訪れる様子を
詠んだ一句。
年の瀬の慌ただしさの中にも、
友情と賑わいが感じられます。
文学者たちの日常を
そのまま切り取った写生が、
子規らしい率直さと温もりを
伝えています。
季語『除夜』
『除夜』の意味
除夜とは、
大晦日の夜から
新年を迎えるまでの時間を
指します。
一年の煩悩を払い、
新しい年を清らかな心で迎える
節目の夜です。
除夜の鐘や
年越しの支度と結びつき、
終わりと始まりが交わる
特別なひとときを表す
冬の時候季語です。
『除夜』のコラム
除夜の夜には、
昼間の慌ただしさが去り、
静かな時間が流れます。
鐘の音や夜気の冷たさが、
一年を振り返る心を促します。
俳句では、
音や闇、待つ気配を通して、
過ぎゆく年への別れと
新年への静かな期待が
描かれてきました。
『除夜』の例句をご紹介

俳句:わが家の いづこか除夜の 釘をうつ
読み:わがいえの いづこかじょやの くぎをうつ
俳人名:山口誓子(やまぐち せいし)
→ことばあそびの詩唄で誓子の句をもっと
要約:除夜の静まり返った夜、
家のどこかで釘を打つ音が
ひそやかに響く情景を詠んだ一句。
華やかな行事ではなく、
暮らしの中の小さな音に
年越しの気配を感じさせます。
誓子らしい写実的な視線が、
新年を迎える直前の緊張と静けさを
淡々と描き出しています。
季語『小寒』
『小寒』の意味
小寒とは、
二十四節気の一つで、
寒さが本格的になり
始める頃を指します。
例年一月初めにあたり、
これから大寒へ向かって
冷え込みが深まっていきます。
年明けの澄んだ空気と、
冬の厳しさの入口を感じさせる
時候季語です。
『小寒』のコラム
小寒の頃は、
正月の賑わいが落ち着き、
日常が静かに戻ってきます。
冷たい朝の空気や、
凛とした日差しが印象的です。
俳句では、
冬の始まりではなく、
寒さが一段深まる節目として、
気持ちを引き締める情景や
静かな生活感を
表す題材として
詠まれてきました。
『小寒』の例句をご紹介

俳句:小寒や 石段下りて 小笹原
読み:しょうかんや いしだんおりて こざさばら
俳人名:波多野爽波(はたの そうは)
要約:小寒の澄んだ空気の中、
石段を下りて視界が開け、
小笹原へと移る一瞬を捉えた一句。
高低差と歩みの変化が、
寒さの深まりと心の静まりを
同時に伝えます。
爽波らしい簡潔な描写が、
冬の入口にある凛とした気配を
すっと立ち上がらせています。
季語『冷たし』
『冷たし』の意味
冷たしとは、
触れたときや身に受けたときに
冷えをはっきり感じる状態を
表す言葉です。
水や風、手触りなど、
身体感覚に直接届く
冷えを含みます。
冬の空気や物の温度を
率直に伝える語として、
感覚季語に用いられます。
『冷たし』のコラム
冷たし、という言葉には、
一瞬の驚きや
身の引き締まりがあります。
手水の水や朝の戸口、
風に触れた頬など、
日常の所作の中で感じられます。
俳句では、
寒さそのものよりも、
触れた瞬間の実感を通して、
冬の存在を
静かに伝える表現として
親しまれてきました。
『冷たし』の例句をご紹介

俳句:つめたいに つけてもゆかし 京の山
読み:つめたいに つけてもゆかし きょうのやま
俳人名:上島鬼貫(うえじま おにつら)
要約:冷たさをそのまま受け止めながらも、
なお趣深いと感じる
京の山の佇まいを詠んだ一句。
寒さを否定せず、
美として味わう心のあり方がにじみます。
鬼貫らしい理知的で静かな感受性が、
冬の冷気と都の気品を
やさしく結びつけています。
季語『冬の果』
『冬の果』の意味
冬の果とは、
冬の季節が尽きようとする頃、
寒さの終わりが
見え始める時期を指します。
厳冬の名残を抱えつつ、
日差しや空気に
わずかな変化が
感じられる頃です。
終わりと次の季節への
移ろいを含んだ言葉として、
冬の時候季語に用いられます。
『冬の果』のコラム
冬の果の景色には、
張りつめた寒さが
静かにゆるみ始める
気配があります。
雪解けの兆しや、
光のやわらぎに、
春の足音を感じる瞬間です。
俳句では、
終わりゆく冬への
名残惜しさと、
次の季節を迎える
静かな心の動きを
映す題材として
詠まれてきました。
『冬の果』の例句をご紹介

俳句:冬の果 蒲団にしづむ 夜の疲れ
読み:ふゆのはて ふとんにしづむ よのつかれ
俳人名:飯田蛇笏(いいだ だこつ)
→ことばあそびの詩唄で蛇笏の句をもっと
要約:冬の終わりに、
一日の疲れを抱えた身が
静かに蒲団へ沈み込む情景を
詠んだ一句。
厳しい季節を越えてきた
身体と心の重みが、
夜の静けさの中でほどけていきます。
蛇笏らしい抑制の効いた表現が、
冬の名残と安堵を
深い余韻として残しています。
まとめ
寒波をめぐる時候季語には、
厳しい寒さの中でこそ
際立つ静けさや澄みが
映されています。
冷え込む空気や夜の深まり、
冬の終わりを感じさせる言葉は、
俳人たちの視線によって
豊かな情景へと
結ばれてきました。
句を通して、
寒さの奥にある
季節の余韻を
味わってみてください。
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