冬に触れる、やさしい季語たち
冬の暮らしには、
温もりや気配を映す
小さな道具や衣服が
そっと寄り添っています。
「冬羽織」「毛布」「寄鍋」など、
身のまわりの
冬のことばを集めました。
有名俳人の句とともに、
季節の温度と人の営みを
やさしく味わってみましょう。
冬の人事季語12選vol.1
季語『冬羽織』
『冬羽織』の意味
冬の寒さを防ぐために着る、
厚手の羽織を指す季語です。
木綿や絹で仕立てられ、
裏地に暖かい素材を
合わせるのが特徴。
外出時はもちろん、
室内でも手軽に羽織れるため、
冬の暮らしに
寄り添う衣服として
古くから親しまれています。
『冬羽織』のコラム
冬羽織は、実用性だけでなく、
人の温もりや生活の穏やかさを
象徴する存在です。
俳句では、羽織を着る動作や
身にまとったときの安心感を
季節の情緒として詠みます。
寒さの中にあるあたたかさを
さりげなく伝える、
冬ならではの季語です。
『冬羽織』の例句をご紹介

俳句:うれしさや 着たり脱いだり 冬羽織
読み:うれしさや きたりぬいだり ふゆばおり
俳人名:村上鬼城(むらかみ きじょう)
要約:冬羽織を着たり脱いだりする、
そんな何気ない動作に
「うれしさ」がにじむ一句。
寒さの中で感じる小さな喜びや、
冬の暮らしの温もりが素直に映し出され、
鬼城らしい優しい日常の目線が光ります。
季語『ショール』
『ショール』の意味
肩や首元を包むための
大判の布で、
冬の寒さを防ぐ防寒具として
用いられます。
毛糸やウール、カシミヤなど
あたたかな素材で
作られるのが特徴。
ふんわりとした
巻き心地が心地よく、
外出時だけでなく
室内でも重宝される、
冬の暮らしに寄り添う季語です。
『ショール』のコラム
ショールは、実用性に加えて
身につける人の雰囲気や仕草を
やわらかく演出する存在です。
首に巻く、肩に掛けるといった
ささやかな動作に
季節の情緒が宿ります。
俳句では、
ぬくもりや心の安らぎを
静かに表現する
題材として親しまれ、
冬の生活の温度を伝えます。
『ショール』の例句をご紹介

俳句:身にまとふ 黒きショールも 古りにけり
読み:みにまとう くろきしょーるも ふりにけり
俳人名:杉田久女(すぎた ひさじょ)
→ことばあそびの詩唄で久女の句をもっと
要約:身にまとってきた黒いショールが、
いつのまにか
古びてしまったと気づく一句。
長い歳月や思い出が染み込んだ布に、
久女らしい静かな情感が重なり、
冬の日常のぬくもりと哀愁が漂います。
季語『火鉢』
『火鉢』の意味
炭火を入れて手足を
温めるための、
陶器や金属で作られた
容器を指します。
部屋の中央や座敷に置かれ、
冬の暮らしを支える暖房具として
古くから親しまれました。
赤く灯る炭火のぬくもりが、
人々の生活に安らぎをもたらす
冬ならではの季語です。
『火鉢』のコラム
火鉢は、
炎ではなく炭火の温かさを
ゆっくりと味わう道具です。
手をかざしたり、
湯を沸かしたり、
家族の団らんの
中心にもなりました。
俳句では、赤い火の光や、
炭をつつく音などが詩情を誘い、
冬の暮らしの静けさと温もりを
象徴する題材として詠まれます。
『火鉢』の例句をご紹介

俳句:大寺や 主なし火鉢 くわんくわんと
読み:おおてらや あるじなしひばち くわんくわんと
俳人名:小林一茶(こばやし いっさ)
→ことばあそびの詩唄で一茶の句をもっと
要約:大きな寺に置かれた、
使う人のいない火鉢が
「くわんくわん」と音を立てる情景。
静まり返った冬の日に、
火だけが淡く生きているようで、
一茶らしい温もりと寂しさが響く一句です。
季語『手袋』
『手袋』の意味
冬の寒さから
手を守るための防寒具で、
毛糸や皮革、
フリースなどさまざまな
素材で作られます。
手を包み込むことで、
冷えを防ぎ温もりを
保つ役割を持ちます。
外出時の必需品として、
大人から子どもまで広く使われ、
冬の暮らしに欠かせない季語です。
『手袋』のコラム
手袋は、
指先の冷たさを
和らげるだけでなく、
身につける人の日常や心情を
ささやかに映し出す存在です。
落とした片方を探す場面や、
手袋越しの温もりなど、
俳句では生活感や
人の気配と結びつきます。
冬の日々の小さな物語を
伝える季語です。
『手袋』の例句をご紹介

俳句:手袋の 左許りに なりにける
読み:てぶくろの ひだりばかりに なりにける
俳人名:正岡子規(まさおか しき)
→ことばあそびの詩唄で子規の句をもっと
要約:手袋がいつのまにか
左手のものだけになってしまった、
そんな小さな出来事を詠んだ句。
冬の日常のなかに潜むおかしみや
寂しさが感じられ、
子規らしい素朴な味わいが
静かに漂います。
季語『冬帽子』
『冬帽子』の意味
冬の寒さから頭を守るために
かぶる帽子を指します。
毛糸やウール、
フリースなど暖かな素材で作られ、
耳まで覆うタイプや、
ふんわりとした形のものなど
種類も豊富です。
外出時の必需品として、
冷たい風を防ぎ、
冬の暮らしに欠かせない季語です。
『冬帽子』のコラム
冬帽子は、
防寒具としてだけでなく、
身につける人の個性や気分を
そっと映し出す存在です。
かぶる仕草や、
脱いだときに
広がる髪の乱れなど、
冬の日常のワンシーンに
温かさが宿ります。
俳句では、
風の強さや寒さを際立たせる
情緒ある題材として
親しまれています。
『冬帽子』の例句をご紹介

俳句:火酒の 頬の赤くやけたり 冬帽子
読み:ひざけの ほおのあかくやけたり ふゆぼうし
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:火酒を飲んで頬が赤くなったところに、
冬帽子がちょこんと
乗っている情景を詠んだ句。
冬の寒さと酒の温もりが対照的で、
虚子らしい人間味と季節の味わいが
ほのぼのと広がります。
季語『冬籠』
『冬籠』の意味
寒さの厳しい冬に外出を控え、
家の中で静かに
過ごすことを指します。
囲炉裏や火鉢のそばで休んだり、
読書や仕事に向き合ったりと、
内向きの時間が
増える季節の習慣です。
冬の寒気を避けながら、
心と身体をゆっくり整える
暮らしの姿を表す季語です。
『冬籠』のコラム
冬籠は、
寒さを避けながら
自分の世界にひたる時間を
象徴します。
外の静けさと
室内のぬくもりの対比が
季節の情緒を深めます。
俳句では、
火のそばでの読書や、
裁縫に向き合う姿など、
人の暮らしの
静かな営みが描かれ、
冬らしい落ち着きを
伝える題材です。
『冬籠』の例句をご紹介

俳句:冬籠り またよりそはん 此の柱
読み:ふゆごもり またよりそはん このはしら
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:冬籠りのあいだ、
ふと気づけば何度も
寄りかかってしまう“この柱”。
家の中で過ごす静かな日々のなかに、
柱への親しみや
心の安らぎがにじむ一句で、
芭蕉の素朴な生活感が
やさしく伝わります。
季語『冬構』
『冬構』の意味
冬の寒さに備えて、
家や身のまわりの準備を
整えることを指します。
障子を張り替えたり、
囲炉裏や火鉢の用意をしたり、
衣類や寝具を
厚手のものに替えるなど、
冬を迎えるための生活の支度です。
季節の訪れを実感させる
暮らしの行いを表す季語です。
『冬構』のコラム
冬構は、寒さを迎え撃つための
人々の知恵や習慣が
表れた言葉です。
家族で協力して行う作業には、
どこかあたたかな
連帯感があります。
俳句では、
準備の音や気配を通して、
冬の訪れへの心の動きを描きます。
暮らしの営みが
詩情となる季語です。
『冬構』の例句をご紹介

俳句:山畑や 青みのこして 冬構へ
読み:やまはたや あおみのこして ふゆがまへ
俳人名:向井去来(むかい きょらい)
→ことばあそびの詩唄で去来の句をもっと
要約:山の畑に、
まだわずかな青さが残るなか、
冬の支度が始まっている
情景を詠んだ句。
自然の色の移ろいと、
人の暮らしの準備が
静かに寄り添い、季節の深まりを
やわらかく伝えています。
季語『冬の灯』
『冬の灯』の意味
冬の暮らしを照らす、
あたたかな灯火を指す季語です。
行灯や灯籠、電灯の光など、
小さくとも心を
和ませる明かりを表します。
寒さに包まれた季節の中で、
人の営みをそっと照らす光として、
冬の情緒を象徴する言葉です。
『冬の灯』のコラム
冬の灯は、外の冷たさと
家の中の温もりを
際立たせる存在です。
暗い季節にともる小さな光は、
安心や静けさをもたらし、
人の心を落ち着かせます。
俳句では、
灯りの揺らぎや色合いを通して、
冬の夜の深い情感を
描く題材となります。
『冬の灯』の例句をご紹介

俳句:冬の灯を はやばや点けて わがひとり
読み:ふゆのひを はやばやつけて わがひとり
俳人名:日野草城(ひの そうじょう)
要約:冬の夕暮れ、
少し早めに灯りをともして
ひとり静かに過ごす情景を詠んだ句。
外の寒さと
部屋の温もりの対比が際立ち、
孤独でありながらどこか落ち着く、
草城らしい淡い感傷が漂います。
季語『寄鍋』
『寄鍋』の意味
野菜や魚、肉、豆腐など
さまざまな食材を
一つの鍋に入れて
煮込んで食べる料理を指します。
冬の団らんを
象徴する温かな食事で、
家族や友人が囲むことで
心まであたたまるのが特徴です。
寒い季節に欠かせない、
冬の人事季語です。
『寄鍋』のコラム
寄鍋は、
食材の旨みが溶け合い、
湯気とともに
冬の幸福感を運びます。
囲んで食べること自体が
人と人との距離を縮め、
豊かな時間を作ります。
俳句では、鍋の湯気や温もり、
食卓の笑顔を通して、
冬の温かな情景を
描く題材です。
『寄鍋』の例句をご紹介

俳句:寄鍋や たそがれ頃の 雪もよひ
読み:よせなべや たそがれごろの ゆきもよい
俳人名:杉田久女(すぎた ひさじょ)
→ことばあそびの詩唄で久女の句をもっと
要約:夕暮れの薄明かりの中、
寄鍋を囲む温もりと、
今にも雪が降り出しそうな気配が
そっと重なる情景。
家の内と外の対比が美しく、
久女らしい繊細な感受性が
にじむ一句です。
季語『暖炉』
『暖炉』の意味
薪や炭を燃やして部屋を
暖めるための、
壁に組み込まれた炉を指します。
炎のゆらぎや
薪のはぜる音が心地よく、
冬の寒さを
和らげる大切な暖房具です。
家族が自然と集まる場所ともなり、
冬の暮らしに温もりをもたらす
象徴的な季語です。
『暖炉』のコラム
暖炉は、
ただ暖をとるだけでなく、
火が生み出す光と影が
冬の室内に深い落ち着きを
与える存在です。
炎を眺める時間には、
人の気持ちを
ゆるめる力があります。
俳句では、
燃える薪の音や
赤い火の色を通して、
冬の静けさとぬくもりを
描く題材となります。
『暖炉』の例句をご紹介

俳句:聖母像 高し暖炉の 火を裾に
読み:せいぼぞう たかしだんろの ひをすそに
俳人名:中村草田男(なかむら くさたお)
→ことばあそびの詩唄で草田男の句をもっと
要約:高い位置に置かれた
聖母像の足元を、
暖炉の火がほのかに
照らす情景を描いた句。
宗教的な静けさと、
冬の火のぬくもりが重なり、
草田男らしい清らかで緊張感ある
美しさが漂います。
季語『毛布』
『毛布』の意味
羊毛や化学繊維などで作られた、
冬の寒さをしのぐための
厚手の敷物・掛物を指します。
寝具として欠かせない存在で、
身体を包み込む
やわらかな温もりが特徴です。
冷え込む季節に、
人々の眠りと生活を守る
冬の代表的な防寒具として
親しまれています。
『毛布』のコラム
毛布は、
その温かさだけでなく、
触れたときの安心感や
包まれる心地よさが魅力です。
寒い夜に身を寄せれば、
日々の疲れがそっと
ほぐれるようなぬくもりがあります。
俳句では、古い毛布や色合い、
仕舞う・出すといった動作を通して、
冬の生活感や情緒を表す季語です。
『毛布』の例句をご紹介

俳句:いと古りし 毛布なれども 手放さず
読み:いとふりし もうふなれども てばなさず
俳人名:松本たかし(まつもと たかし)
要約:とても古くなった毛布であっても、
捨てずに使い続けているという一句。
長年寄り添ってきた温もりや、
そこに宿る思い出への愛着がにじみ、
たかしらしい穏やかな情感が漂います。
季語『マスク』
『マスク』の意味
口や鼻を覆い、
風邪や感染症、
乾燥を防ぐために用いる布や
不織布の覆いを指します。
冬は冷たい空気から喉を
守る効果も高く、
日常の外出に
欠かせない存在です。
健康を保つための
実用的な防寒具として、
現代の暮らしに
根づいた季語です。
『マスク』のコラム
マスクは防寒具であると同時に、
人との距離感や心の状態を
さりげなく映し出す
アイテムでもあります。
息の白さや湿り気、
会話の少なさなどを通して、
冬特有の静けさや
気配を表現できます。
俳句では、
日常の動きと季節感が結びつく
現代的な題材として
親しまれています。
『マスク』の例句をご紹介

俳句:マスクして 我を見る目の 遠くより
読み:ますくして われをみるめの とおくより
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:マスクをしたまま、
遠くから自分を見つめてくる
まなざしを捉えた句。
距離のある視線に、
冬の冷たさと人との隔たりがにじみ、
虚子らしい静かな観察と
感情の揺れが伝わります。
まとめ
冬の人事季語は、
衣服や道具、
食卓の温もりを通して、
季節と人の暮らしを結びます。
ささやかな動作や気配に、
冬ならではの情緒が宿ります。
俳句を味わいながら、
日々の中にある温かな冬景色を
感じてみましょう。
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