冬に触れる、やさしい季語たち
冬の景色には、
寒さの中でそっと咲く花や、
枯れた姿に美しさを
宿す草木があります。
水仙や冬薔薇、枯菊など、
控えめながら確かな存在感を
もつ植物たち。
俳人の句とともに、
冬の植物が語る季節の深い情緒を
やさしく味わってみましょう。
冬の植物季語12選vol.1
季語『水仙』
『水仙』の意味
冬の寒さの中で白や黄の花を咲かせ、
清らかな香りを放つ植物を
「水仙」と呼びます。
凛と立つ姿や、
冷たい風にそよぐ細い葉が特徴です。
冬枯れの景色の中に
ひと筋の明るさをもたらし、
気品ある冬の花として
親しまれる季語です。
『水仙』のコラム
水仙は、
冬に咲く静かな華やぎを持ち、
古くから俳句や和歌で
多く詠まれてきました。
うつむくような花姿には
控えめな美しさがあり、
寒気の中でも香りが漂うため、
冬の凛とした空気を象徴します。
清らかさや
孤高さを描く題材として
俳句でも人気の季語です。
『水仙』の例句をご紹介

俳句:水仙に 日のあたるこそ さむげなれ
読み:すいせんに ひのあたるこそ さむげなれ
俳人名:大江丸(おおえまる)
要約:冬の日差しが
水仙に当たっているのに、
どこか寒々しく感じられる
情景を描いた句。
光の中に漂う冷たさが印象的で、
清らかな花と
冬の空気の張りつめた対比が
静かな美しさを生んでいます。
季語『シクラメン』
『シクラメン』の意味
シクラメンは冬から
早春に咲く鉢花で、
赤・桃・白など
豊かな色合いが特徴です。
寒い季節にも花を絶やさず、
室内を明るくしてくれる
存在として親しまれます。
独特の反り返る花びらが美しく、
冬の暮らしを彩る季語です。
『シクラメン』のコラム
冬の窓辺に置かれることが多く、
弱い日差しの中でしっとり咲く
姿が愛されています。
華やかでありながら、
どこか控えめな佇まいが
冬の静けさとよく調和します。
俳句では、室内の温かさや
人の気配をやさしく
映し出す題材として
好まれてきた花です。
『シクラメン』の例句をご紹介

俳句:部屋のこと すべて鏡に シクラメン
読み:へやのこと すべてかがみに しくらめん
俳人名:中村汀女(なかむら ていじょ)
→ことばあそびの詩唄で汀女の句をもっと
要約:鏡に映る部屋の景色の中で、
シクラメンの花だけが際立っている
情景を描いた句。
冬の室内に咲く花の存在が、
生活の静けさや心の落ち着きを
そっと照らし、
汀女らしい柔らかな感性が光ります。
季語『冬薔薇』
『冬薔薇』の意味
冬の寒さの中でも咲く薔薇を
「冬薔薇」と呼びます。
花びらは小ぶりで色も淡く、
風に揺れる姿に
どこか儚さが漂います。
厳しい季節に咲くため、
力強さと繊細さを併せ持ち、
冬景色に静かな彩りを
添える季語です。
『冬薔薇』のコラム
冬薔薇は、華やかさよりも
ひっそりと咲く慎ましい
美しさが魅力です。
枯れ枝の間に一輪だけ残る花は、
冬の寂しさの中の
希望のように映ります。
俳句では、寒さや孤独を背景に、
花の気高さや
生命の強さを描く題材として
よく用いられます。
『冬薔薇』の例句をご紹介

俳句:冬薔薇 石の天使に 石の羽根
読み:ふゆそうび いしのてんしに いしのはね
俳人名:中村草田男(なかむら くさたお)
→ことばあそびの詩唄で草田男の句をもっと
要約:冬薔薇のそばに置かれた石像の天使が、
冷たい季節の光を受けて静かに佇む情景。
石の羽根の硬さと、
冬薔薇の慎ましい美しさが対照的で、
草田男らしい彫刻的な冬景が
印象的な一句です。
季語『枯菊』
『枯菊』の意味
秋に咲いた菊が、
冬になると色を失い、
乾いた花びらや茎だけを
残した姿を指します。
かつての華やかさが消え、
淡い茶色へと変わっていく様子には、
季節の移ろいと
静かな余韻が漂います。
冬枯れの景色を象徴する季語です。
『枯菊』のコラム
枯菊は、散りゆく美しさを
そっと伝える存在です。
花が枯れてもなお形を保つため、
過ぎた季節の記憶を
とどめるかのような
印象を与えます。
俳句では、寂しさや
人生の余白を描く題材として
親しまれ、
冬の静かな風景とよく調和します。
『枯菊』の例句をご紹介

俳句:枯菊や こまかき雨の ゆふまぐれ
読み:かれぎくや こまかきあめの ゆうまぐれ
俳人名:日野草城(ひの そうじょう)
要約:枯れた菊に、
細かな雨がそっと降りかかる
夕暮れの情景を描いた句。
色を失った花と静かな雨が重なり、
冬の寂しさと
やわらかな余韻が漂います。
草城らしい繊細で抒情的な
雰囲気の一句です。
季語『寒菊』
『寒菊』の意味
冬の寒さの中でも
力強く咲く菊を「寒菊」と呼びます。
秋の菊よりも花は小ぶりで、
色も落ち着いた黄や
白が多いのが特徴です。
霜や冷気に耐えて咲く姿には、
清廉さと気高さが宿り、
冬の庭に凛とした
雰囲気を添える季語です。
『寒菊』のコラム
寒菊は、
厳しい季節に咲く花として、
その凛とした強さから
多くの俳人に愛されてきました。
冬景色の中で静かに花を開く様子は、
控えめながらも存在感があります。
俳句では、耐える姿と冬の光が生む
淡い美しさを
描く題材として親しまれます。
『寒菊』の例句をご紹介

俳句:寒菊や 粉糠のかかる 臼の端
読み:かんぎくや こぬかのかかる うすのはし
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:寒菊が咲くそばに、
粉糠がうっすらかかった臼が
置かれている情景。
素朴な農村の冬の日常が
静かに浮かび、
寒菊の凛とした美しさが際立ちます。
芭蕉らしい暮らしと自然の調和を
描いた句です。
季語『冬草』
『冬草』の意味
冬の寒さの中でも、
地面に低くしなやかに
生えている草を指します。
色はくすんだ緑や茶で、
踏まれても枯れずに
生命を保つのが特徴です。
控えめな姿の中に強さがあり、
冬の野や庭に静かな存在感を
与える季語です。
『冬草』のコラム
冬草は、華やかさはないものの、
季節を耐え抜く力強さが魅力です。
霜や寒風にさらされながらも、
地面に寄り添うように
生き続けます。
俳句では、冬枯れの景色の中に残る
かすかな緑を描くことで、
静かな余韻や生命の律動を
表す題材になります。
『冬草』の例句をご紹介

俳句:鎌倉や 冬草青く 松緑
読み:かまくらや ふゆくさあおく まつみどり
俳人名:高浜虚子(たかはま きょし)
→ことばあそびの詩唄で虚子の句をもっと
要約:冬の鎌倉で、
冬草のわずかな青みと松の深い緑が
鮮やかに映える様子を描いた句。
寒い季節の中にも息づく色彩が際立ち、
虚子らしい写生による
清澄な冬景が広がります。
季語『石蕗の花』
『石蕗の花』の意味
石蕗(つわぶき)は、
光沢のある厚い葉を持つ多年草で、
晩秋から冬にかけて
黄色い花を咲かせます。
暗い庭や石垣のそばでも明るく映え、
冬景色の中に温かな光を
添える存在です。
強い生命力を感じさせる、
冬の代表的な植物季語です。
『石蕗の花』のコラム
石蕗の花は、
晩秋から冬へ移る季節の中で
ひっそりと咲く黄の彩りが魅力です。
静かな庭の隅や
寺院の石段に寄り添うように咲き、
落ち着いた冬の風景を照らします。
俳句では、
控えめながら力強い花姿を通して、
冬の優しさや侘びの情緒を
表す題材とされています。
『石蕗の花』の例句をご紹介

俳句:地軸より 咲きし色なり 石蕗の花
読み:ちじくより さきしいろなり つわのはな
俳人名:原石鼎(はら せきてい)
要約:石蕗の花の黄色が、
まるで地球の中心から
湧き出した色のように
力強く感じられるという句。
冬の静けさの中で
鮮やかに咲く花の生命力を、
壮大な比喩で表し、
石鼎らしい独自の感性が光る作品です。
季語『冬菫』
『冬菫』の意味
冬に咲く菫(すみれ)を指し、
春の菫よりも花は
小さく色も控えめです。
冷たい地面に
寄り添うように咲く姿には、
慎ましい美しさと強さが宿ります。
寒さの中で
ひっそり花を開く様子が、
冬の静かな生命感を
伝える季語です。
『冬菫』のコラム
冬菫は、目立たないながらも
凛とした存在感を持つ花です。
落葉した庭や道端に
ぽつりと咲くその姿は、
冬枯れの景色に
ほのかな色を添えます。
俳句では、静けさや慎ましさ、
冬に宿る小さな希望を
表す題材として
大切に詠まれてきました。
『冬菫』の例句をご紹介

俳句:わが齢 わが愛しくて 冬菫
読み:わがよわい わがかなしくて ふゆすみれ
俳人名:富安風生(とみやす ふうせい)
→ことばあそびの詩唄で風生の句をもっと
要約:年齢を重ねた自分自身の存在が
しみじみと愛おしく思える心情を、
ひっそり咲く冬菫の姿に重ねた句。
静かな冬の花が、
人生の哀しさと温かな自己受容を
そっと照らしている一作です。
季語『冬木』
『冬木』の意味
葉を落とし、枝だけになった木を
「冬木」と呼びます。
冷たい風にさらされても
まっすぐ立つ姿には、
季節の厳しさと
静かな力強さが宿ります。
装いを失った分、
枝ぶりの美しさや影が際立ち、
冬景色の象徴となる季語です。
『冬木』のコラム
冬木は、一見すると寂しげですが、
春を待つ生命力を秘めています。
空に向かって伸びる枝の線は、
冬の淡い光とよく調和し、
静かな詩情を生み出します。
俳句では、孤独・静寂・余白など、
冬ならではの心象を映す題材として
親しまれています。
『冬木』の例句をご紹介

俳句:城山や 敵の見すかす 冬木立
読み:しろやまや てきのみすかす ふゆこだち
俳人名:森川許六(もりかわ きょりく)
→ことばあそびの詩唄で許六の句をもっと
要約:葉を落とした冬木立の隙間から、
敵の姿が見え隠れする
緊張感を描いた句。
冬の城山に漂う静けさの中に、
戦いの気配がわずかに残り、
許六らしい歴史的情景の鋭さが
表れています。
季語『落葉』
『落葉』の意味
木々が冬を迎える前に葉を落とし、
地面に降り積もった葉を
「落葉」と呼びます。
色づいた葉が風に舞い、
静かに地表を覆う様子は
季節の移ろいを象徴します。
踏むと音を立てる軽さや、
淡い色合いが冬景色の入り口を
告げる季語です。
『落葉』のコラム
落葉は、
過ぎゆく季節の余韻を
しずかに残す存在です。
道端や庭を覆う葉の層には、
秋の名残と冬の静けさが
同時に漂います。
俳句では、
音・色・軽さなどを通して
侘びや寂しさを表現し、
心の陰影を映す
題材として好まれます。
『落葉』の例句をご紹介

俳句:賽銭を 落として払ふ 落葉かな
読み:さいせんを おとしてはらう おちばかな
俳人名:向井去来(むかい きょらい)
→ことばあそびの詩唄で去来の句をもっと
要約:賽銭を落とした音に、
落葉が風に払われる軽やかな動きが
重なる情景。
神社の静けさの中で、
自然の音と所作が調和し、
去来らしい品のある冬の気配が
漂う一句です。
季語『冬枯』
『冬枯』の意味
草木がすべて枯れ、
色や勢いを失った冬の景色を
「冬枯」と呼びます。
葉は落ち、枝や地面には
茶や灰の静かな色が広がります。
生命の気配が
薄れたように見える中にも、
季節の深まりと自然の静寂が漂う、
冬を象徴する季語です。
『冬枯』のコラム
冬枯は、
一面が枯れ色に包まれた風景の中に、
静けさと侘びの美を
見いだす季語です。
生命の躍動が途絶えたような景色は、
逆に余白の豊かさを際立てます。
俳句では、
孤独・静寂・時間の停滞など、
冬特有の心象を映し出す題材として
古くから愛されています。
『冬枯』の例句をご紹介

俳句:冬枯れや 雀のあるく 桶の中
読み:ふゆがれや すずめのあるく おけのなか
俳人名:炭太祇(たん たいぎ)
→ことばあそびの詩唄で太祇の句をもっと
要約:冬枯れの景色の中、
空になった桶の中を小さな雀が
歩き回る様子を描いた句。
閑散とした冬の風景に、
一羽の動きがかすかな温もりを添え、
太祇らしい素朴で
静かな味わいが漂っています。
季語『大根』
『大根』の意味
晩秋から冬にかけて旬を
迎える根菜で、
白く太い姿が特徴です。
寒さに当たることで甘みが増し、
冬の食卓に欠かせない
存在となります。
畑で土の中から抜かれる様子や、
干して保存する風景も冬らしく、
季語として広く親しまれています。
『大根』のコラム
大根は、素朴でありながら
冬の暮らしを支える力強い食材です。
煮物やおでんなど、
温かな料理に使われることで
季節のぬくもりを感じさせます。
俳句では、
白さ・重さ・畑の景色などを通し、
冬の生活感や
自然の静けさを描く題材として
多く詠まれています。
『大根』の例句をご紹介

俳句:菊の後 大根の外 更になし
読み:きくのあと だいこんのほか さらになし
俳人名:松尾芭蕉(まつお ばしょう)
→ことばあそびの詩唄で芭蕉の句をもっと
要約:菊の花が終わった晩秋から冬へ、
畑には大根以外に
見るものがなくなるという句。
季節が一気に質素で寒々しい景へ
移り変わる様子を、
芭蕉らしい写生で
端的に示した一句です。
まとめ
冬の植物季語は、
寒さの中で咲く花や、
枯れゆく草木の姿を通して、
季節の静かな息づかいを伝えます。
水仙や冬薔薇、枯菊など、
控えめな色や形がかえって
冬の深い情緒を際立たせます。
俳句とともに、
その美しさを味わいましょう。
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